「フィランソロピーのニューフロンティア」における新たなアクターの中でも、最も多様な拡がりを見せているのが、「オンライン寄付・投資サイト(Online Portals & Exchanges)」です。もちろん、インターネットが登場した比較的早い段階から、オンライン上で寄付を募るという行為は始まっていました。しかし、近年、この「オンライン寄付・投資サイト」は専門化と多様化が急速に進行しています。
1.「オンライン寄付・投資サイト」とは何か
オンライン寄付・投資サイトとは、その名が示すとおり、インターネットを通じて、寄付や投資をしたいと思っている個人・組織と、こうしたリソースを活用して社会的な活動を行いたいと考えている個人・組織を仲介する存在です。一般には、寄付サイトや社会的企業向けのクラウド・ファンディング・サイトを思い浮かべる方が多いと思いますが、それ以外にも多様な形態が存在しています。なぜなら、オンライン寄付・投資サイトが仲介するリソースは、以下のように多様だからです。
- 資金リソース(事業資金、長期投資資金など)
- 商品(コンピューターのハードとソフト、薬品、食料品など)
- サービス(有料サービス、ボランティアなど)
従来型のポータルサイトと異なり、オンライン寄付・投資サイトは専門化しています。具体的には、(1)特定の資金・財・サービスに特化し、(2)資金や財の提供者と、これを活用する事業者が適切に仲介されるよう、専門的なデータベースを提供し、また情報セキュリティを構築する、などの点で、従来型のポータルサイトとは異なります。
2.「オンライン寄付・投資サイト」の具体的な事例
では、現在、どのような活動が行われているのでしょうか。具体的な事例に則してみていきましょう。
- 金銭寄付・投資
オンライン上で寄付や投資を募り、これを社会的企業や非営利組織に仲介します。寄付サイトとしては、Network for GoodやDonorsChooseが有名です。また、開発途上国向けのマイクロファイナンス資金を広く募集するKivaのような組織もあります。こうしたサイトは全世界に広がっていて、英国のJustGivingやインドのGiveIndiaなど、各地で活発な活動が展開しています。 - 製品寄付
企業の協力を得て製品を非営利組織や社会的企業に仲介します。コンピューターのソフトやハードを仲介するTechSoupGlobalが有名ですが、多数の企業の協力を得て、電化製品、保健・健康製品、建材、衣料製品など、多様な製品を非営利組織に提供しているGood360や、全米各地のフードバンクに対する企業の食料品寄付を仲介するFeeding America、災害支援や飢饉救援などに対する企業の医薬品寄付を仲介するAmericareなど、様々な団体が活動しています。 - サービス提供
オンラインを通じて、社会的企業や非営利組織に対して様々なサービスを提供します。Care2は、市民団体が様々な請願(Petition)をオンライン上で行うことが出来るサービスです。Idealist.orgは、非営利組織や社会的企業が行う職員募集、ボランティア募集、イベント参加募集など、様々な募集情報を掲載しています。VolunteerMatchは、非営利組織のボランティア情報を集約し、個人や企業のボランティア参加を募っています。
3.「オンライン寄付・投資サイト」の現状と課題
オンライン寄付・投資サイトは、着実に発展を遂げています。特に、近年は、スマートフォンを使った寄付・投資や、携帯電話のテキスト・メッセージングを使った寄付・投資も可能になりました。オンライン寄付の金額は急速に拡大しており、いまや非営利組織のファンドレイジング戦略になくてはならないツールになっています。しかし、一方で、アメリカの場合、非営利組織の寄付の多くは、いまだに大規模な寄付や毎年のファンドレイジング・イベントに依存していることも忘れてはなりません。オンライン寄付の割合は、米国の寄付総額から比べるとわずかな割合しか占めていません。これが今後、逆転するまでにオンライン寄付が成長するかどうかは、まだ分からないというのが現状です。
一方で、オンライン寄付・投資サイトが威力を発揮する分野は明確です。これは、災害援助や大規模基金などへの緊急支援の分野です。マス・メディアが大々的に報道するのに合わせてオンラインやモバイル上で寄付キャンペーンを行うことは非常に効果があることは過去の事例が証明しています。これは金銭寄付のみならず、製品寄付でも同様です。
さらに、近年の動向としては、ソーシャル・メディアを活用し、個人がある特定の主義・主張のために寄付を募るキャンペーン型のもの(JustGivingはその典型例です)、開発途上国の非営利組織に資金調達キャンペーンのためのプラットフォームを提供するGlobalGiving、ディアスポラ・フィランソロピーをターゲットにしたGive2Asiaなど、さらに多様化が進んでいます。オンライン・寄付投資サイトは、これからもますますその多様性と専門性を発展させていくことが期待されます。
「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)