新たなアクター6 キャパシティ・ビルディング支援団体

今回は、「フィランソロピーのニューフロンティア」における新たなアクターとして「キャパシティ・ビルディング支援団体」を紹介します。「キャパシティ・ビルディング支援団体」自体は、「フィランソロピーのニュー・フロンティア」が登場する前から活動を行ってきました。しかし、フロンティアの登場により、新たなアクターが登場しています。

1.新たな「キャパシティ・ビルディング支援団体」とは?

では、そもそも、「伝統的なキャパシティ・ビルディング支援団体」というのはどのようなものでしょうか。伝統的には、非営利組織の中間支援団体やコンサルティング団体がこの役割を担ってきました。その支援内容は、具体的には以下のようなものです。

  • 理事会の活性化・強化
  • ファンドレイジング・キャンペーンの支援
  • 非営利会計システムの整備
  • IT技術の整備
  • 人材育成

こうした支援は、非営利組織の経営能力を高め、事業実施能力を強化します。これを担うために、ボード・ソースファンドレイジング専門家協会テクスープなど、様々な全国ネットワークが設立されてきました。

しかし、「フィランソロピーのニューフロンティア」が登場するに伴って、新たなニーズが生まれました。それは、非営利組織から社会的企業へと言う大きな流れの中で、ビジネスの手法を取り入れつつ事業のスケールアップを図るのを支援してほしいという要請です。これに応えるために登場したのが新たな「キャパシティ・ビルディング支援団体」です。これには、「ベンチャー・フィランソロピー」と呼ばれるグループと、専門的コンサルタントのグループの2つのグループがあります。

ただし、この2つのグループは互いに無関係ではなく、互いに密接に関わっています。ベンチャー・フィランソロピー組織は、自ら社会的企業を直接支援する場合もあれば、専門コンサルタントに支援を依頼する場合もあるからです。もちろん、専門コンサルタントは、ベンチャー・フィランソロピーの依頼を受けるだけでなく、社会的企業から直接依頼を受けて支援を行う場合もあります。

2.「ベンチャー・フィランソロピー」の活動

ベンチャー・フィランソロピーとは、ベンチャー・キャピタルの手法をフィランソロピーに取り入れた団体です。ベンチャー・フィランソロピーは、ベンチャー・キャピタルと同じように、支援先団体に資金を提供するだけでなく、経営コンサルティングや技術支援、ネットワーク形成など様々な非資金的支援を通じてキャパシティ・ビルディングを行います。ベンチャー・フィランソロピーの特徴としては、以下のものがあります。

  • プロジェクト支援ではなく、キャパシティ・ビルディング支援を重視し、スケールアップとインパクトの最大化を図る。
  • このために、支援対象を厳選し、これに対する大規模支援を行う。
  • キャパシティ・ビルディングに重点を置くため、通常の助成期間よりも長い期間(3〜5年またはそれ以上)の支援を行う。
  • アウトプット評価よりもアウトカム評価やインパクト評価を重視し、ビジネス同様に事業の進捗状況を客観的な数値指標でモニタリングする。
  • エグジット・プランを明確に設定し、支援終了後の組織の自律性やスケールアップ可能性を重視する。

ベンチャー・フィランソロピーの先駆的な例としては、REDFロビンフッド財団エドナ・マコーネル・クラーク財団などがあります。また、ベンチャー・フィランソロピーのネットワークとして、ソーシャル・ベンチャー・パートナーズベンチャー・フィランソロピー・パートナーズなどが活発に活動しています。

3.「専門コンサルタント」の活動

こうしたベンチャー・フィランソロピーを補完しつつ、独自のキャパシティ・ビルディング支援団体として活動しているのが専門コンサルタントです。彼らは、非営利組織が社会的企業として活動の専門性と規模を拡大していくに伴い、必要となってきた様々なスキルや能力の開発支援を行います。その内容は多岐にわたりますが、具体的には以下のようなものがあります。

  • 戦略計画の策定
  • 活動のスケールアップ
  • 専門人材のリクルート
  • 事業収入拡大戦略
  • 寄付・助成金以外の、社会的投資などオルターナティブ・ファイナンスを通じた資金調達
  • 社会的成果・インパクト評価

米国では、様々な団体がこの分野で活動しています。具体的には、経営支援を行うブリッジスパン・グループモニター・インスティチュート、人材リクルートを支援するコモングッド・キャリアブリッジスター、事業収入拡大を支援するコミュニティ・ウェルス・パートナーズ、資金調達を支援するノンプロフィット・ファイナンス・ファンド、インパクト評価を支援するSVTグループなどです。

4.「キャパシティ・ビルディング支援団体」の発展

「キャパシティ・ビルディング支援団体」が登場し、その事業の成果が明らかになるにつれて、多くの助成財団が、キャパシティ・ビルディング支援に取り組むようになりました。この結果、様々なネットワーク組織も形成されています。その中には、「効果的組織のためのグラントメーカーズ」のように全米規模のネットワークを築いて、大きな影響力を持つものもでてきました。また、非営利経営者連合のように、専門分野に特化したネットワークも生まれています。

非営利セクターも、フィランソロピーのニューフロンティアの登場によって、さらにその規模と専門性を拡大させました。これを担うには高度な経営能力と実務能力を持った人材がますます必要になります。このようなニーズを満たすために、キャパシティ・ビルディング支援団体はさらに発展していくことが期待されます。

「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)

210648