「フィランソロピーのニューフロンティア」の新たなアクターとして、次に紹介するのは「社会的投資ブローカー（Enterprise Broker）」です。この概念、非常に独特の概念で、おそらく「フィランソロピーのニューフロンティア」の研究チーム以外にはまったく共有されていないと思いますが、今後、きちんと分析していくことが必要な重要な考え方だと思います。
１．社会的投資ブローカーとは？
社会的投資ブローカーとは、財団や機関投資家が社会的投資を行いたいと考えたときに、投資先のポートフォリオを提案し、投資先を探し出し、投資先のデュー・ディリジェンスを行い、さらに投資レポートを作成するなどのコンサルティング業務を担うアクターを指します。
繰り返し述べてきたとおり、フィランソロピーのニューフロンティアはまだ発展途上にあるため、社会的投資ブローカーも多様な層が関わっています。ケンブリッジ・アソシエイツのような大手のコンサルティング会社のESG投資チームである場合もあれば、（最近、ゴールドマンサックスに買収されて話題を呼んだ）Imprint Capitalのように専門特化したファンド・マネージング会社や非営利コンサルタントの場合もあります。また、取り扱う領域も、ESG投資や社会的責任投資など既にインデックスが確立されているものから、ソーシャル・ベンチャーを見つけ出してきてベンチャー・キャピタルと同様にプライベート・エクイティを扱うものまで、多様性に満ちています。財団のミッション投資を専門に扱うMore for Mission（現在は、ミッション・インベスターズ・エクスチェンジと統合）のように、財団に特化した団体もあります。
いずれにせよ、社会的投資ブローカーとは、このような様々なニーズを持った社会的投資家（個人、財団、ファンド、金融機関・・・）に対して、社会的投資に関するコンサルティング・サービスを行う組織となります。ただし、その組織形態には営利も非営利もありますし、顧客層やターゲットとする投資先もそれぞれ専門化されています。さらに、取り扱う金融商品も、ESG投資からソーシャル・ベンチャーを対象としたエクイティやローン、あるいは大型のストラクチャード・ファイナンス商品まで非常に多様だと言うことは強調しておく必要があるでしょう。
２．社会的投資ブローカーの役割
社会的投資ブローカーは、発展途上にある社会的投資市場において、社会的投資家が自分たちの戦略に基づいて適切な投資ポートフォリオを構築し、経済的・社会的両面で投資リターンを確保することを支援します。具体的には、以下のような役割を果たしています。
- 社会的投資家のミッションと価値に適合した投資戦略の策定
- 社会的投資家のリスク・リターン特性に基づき、アセット・クラスの望ましいバランスを確保
- 特定の主題や地域など、社会的投資家の優先投資分野を決定
- 社会的投資家のリスク・リターン選好や社会的／環境的投資目標に合致するよう事前評価とデュー・ディリジェンスを実施
- 投資先となるファンドやソーシャル・ベンチャーを選定
- 投資パフォーマンス評価とモニタリングを実施
３．社会的投資ブローカーの課題と展望
社会的投資はまだ発展途上にあります。また、これに参入しようとする助成財団や篤志家は、必ずしも投資やソーシャル・ベンチャーに精通しているわけではありません。このギャップを埋めるために、社会的投資ブローカーの存在は不可欠です。他方、社会的投資ブローカーが発展していくためには様々な課題があります。これをまとめると以下のようになります。
- 社会的投資に関心を持つ財団や投資家層が小さく資金が限られている
- 社会的投資の対象となり得るソーシャル・ベンチャーも限られており、適切な投資ポートフォリオを組むのが困難
- 社会的投資をマネージするのに必要な専門人材の不足
これらの課題は、まさに社会的投資市場の発展における課題でもあります。しかし、社会的投資市場は、インパクト投資、社会的インパクト債、コミュニティ債など、様々な新しい手法を開発しつつあります。また、近年のＧ８社会的インパクト投資タスクフォースの報告や、これを受けたOECD報告などを踏まえて、先進諸国でも政策課題として認識されつつあります。社会的投資ブローカーの先駆者であるImprint Capitalがゴールドマン・サックスに買収されたという事実は、こうした動向を踏まえて大手の投資会社がこの領域に真剣に取り組み始めたことを意味しています。今後、社会的投資ブローカーは、上記の課題を乗り越えてさらに発展していくことが期待されます。
「フィランソロピーのニューフロンティア：
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
（レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房）
