「フィランソロピーのニューフロンティア」に登場したアクターとして最後に紹介するのは、「共同ファンディング(Funding Collaborative)」と呼ばれる枠組みです。その名の通り、個人や組織が共同で寄付や助成・投資を行うというものです。
1.「共同ファンディング」登場の背景
従来、個人や組織は単独で寄付や助成・投資を行うのが一般的でした。共同ファンディングという形で、共同で支援する枠組みが登場した背景には、幾つかの要因があります。
最も重要な要因は、社会的課題の複雑化と規模の拡大があります。個人であれ、組織であれ、単なるチャリティを超えて社会的課題の解決に取り組みたいと考えるのであれば、単独支援に限界を感じ、同じ問題意識を持った個人・組織で集まって共同で支援することにより、インパクトの拡大を目指そうとするのは自然な流れです。
同時に、このような共同を可能にしたソーシャル・メディアの発達や、ネットワークの拡大、さらに共同ファンディングを支える中間支援組織の登場などの要因も忘れることは出来ません。インターネットを通じて簡単に個人同士が意見交換できるようになり、さらにコミュニティ財団などが共同ファンディングの場を提供するようになったために、同じ志を持った個人が共同で支援することがはるかに簡単になりました。また、非営利分野での専門コンサルティング組織や中間支援組織の発達に伴い、彼らも財団などが共同で助成を行うことのできるプラットフォームを提供するようになりました。これが、「共同ファンディング」の登場に大きな影響力を持ったと考えられます。
2.「共同ファンディング」の諸類型
共同ファンディングには様々な形態がありますが、類型としては以下のものが考えられます。
■個人による共同ファンディング
- グラント・メイキング型(ギビング・サークル)
同じ問題関心を持った個人が集まって、資金を出し合い、共同で支援先を決定するという類型です。米国では、「ギビング・サークル」として普及しています。規模も10数人から数百人と幅があり、1人あたりの資金提供額も50ドルなどの少額から1万ドル以上まで、多様な発展を見せています。また、支援対象も、コミュニティの貧困問題、出身大学の在学生支援、LGBT支援、少数民族支援など、様々です。たとえば、ニューヨークでアジア系女性の支援に取り組むAsian Women ギビング・サークル、ロチェスター・コミュニティ財団をプラットフォームにLGBT支援を行うLGBTギビング・サークル、ボルチモア地域の恵まれない黒人層支援を行うThe Change Fundなど、様々なものが設立されています。ソーシャル・ベンチャー・パートナーズのように、全国レベルで組織化された形態もあります。 - 社会的投資型
ギビング・サークルの投資家版です。基本的には、スタートアップや初期段階を支援するエンジェル投資家のネットワークが中心になります。たとえば、ファースト・ライト・ベンチャーズは、シード段階のインドの社会起業家に投資を行っています。 - 情報共有型
グラントメイキングや投資に至る前段階で、ネットワーキングや情報共有の場を提供する類型です。たとえば、ResourceGenerationは、米国の富裕層の子弟を対象に、ファミリー・フィランソロピーについて相互に学ぶ機会を提供しています。グローバル・フィランソロピスト・サークルは、フィランソロピー活動に関心を持つ世界中の富裕層を対象に、ネットワーキングの機会やフィランソロピー手法を学ぶ機会を提供しています。社会的インパクト投資の分野で同様の活動を行っているネットワークとしては、TONIICがあります。
■機関による共同ファンディング
- グラント・メイキング型
助成財団が共通の課題解決のために共同でグラント・メイキングを行う類型です。アフリカの熱帯病治療のための調査を支援する欧州財団の共同イニシアチブや、持続可能な開発のための熱帯雨林保護や持続可能な土地利用の促進を目指す気候・土地利用連合、国際社会における水資源の保全と衛生的な水供給を目指すWASHfundersなど、様々なプロジェクトが進行しています。 - 社会的投資型
助成財団や社会的投資機関が、特定の課題解決のために共同で投資を行う類型です。投資シンジケートを組成する場合もあれば、ストラクチャード・ファイナンス商品に助成財団や社会的投資機関が参加する場合や、助成財団のグラントと社会的投資機関の投資を組み合わせる場合もあり、様々な手法が発展しています。いずれの場合でも、助成財団は、通常、リターンを低くしたりリスク性の高い劣後部分を引き受けることで、社会的投資機関の投資を呼び込むように努めます。代表的な例としては、リビング・シティズやインベスターズ・サークルがあります。 - 情報共有型
自らはグラントや社会的投資を行わず、助成財団や社会的投資機関に対して、相互の情報交換・ネットワークの場を提供したり、各種アドバイスやコンサルティングなどの機会を提供する類型です。専門的な分野における様々な情報を入手でき、必要に応じて共同ファンディングのパートナーを見つけることが出来るため、様々な分野で多くのネットワークが活動しています。代表的な例としては、女性ファンディング・ネットワーク、Grantmakers in Health (GIH)、環境ファンダーズ・ネットワーク、Grantmakers in the Arts、Mission Investors Exchange、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)などがあります。また、米国では、グラントメーカーズ地域協会も発展しており、全米に33の地域組織があり、5500団体以上がこの地域組織に参加しています。地域組織の全国ネットワークとしてグラントメーカーズ地域協会フォーラムも設立されています。
3.「共同ファンディング」の現状と課題
近年、米国助成財団センターなどが中心となり、ファンダー間の共同を促進するための様々なオンラインプラットフォームが開発されています。このプラットフォームは、特定の国・地域の社会的課題に関する情報を定量指標化した形で提供し、さらにその国・地域で活動するファンダーの情報をマッピングすることで、ファンダー間の共同を促しています。今後、このような情報プラットフォームを通じて、ますますファンダー間の共同は進んでいくと思われます。
他方、ギビング・サークルなどの個人の共同ファンディングには課題もあります。ギビング・サークルは、草の根レベルでの個人の共同に特色があります。しかし、事業インパクトを高めるために組織の規模を大きくすると、各個人の参加の度合いが低くなってしまいます。個人の参加と共同ファンディングのインパクトをどのように調和させるかという問題は、引き続き課題として残るでしょう。
いずれにせよ、現在は、ネットワークの時代です。これは、フィランソロピーの分野でも例外ではありません。このため、今後も「共同ファンディング」はその数、規模、多様性共に発展していくことが予想されます。
「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)