グローバル・フィランソロピーの時代における助成財団の新たな役割

1.欧米を中心としたフィランソロピー・セクターの発展

1990年代以降、欧米先進諸国を中心に、国際社会におけるフィランソロピーの状況は大きく変化しました。90年代以降、欧米においては助成財団セクターが大きく発展しました。また、助成財団のグラント・メイキング手法も戦略化が進み、様々な支援手法が発展してきました。その中には、ロジック・モデルを利用した戦略的グラント・メイキング、ベンチャー・フィランソロピー、触媒型フィランソロピー、共同ファンディングなどがあげられます。また、社会的インパクト投資やマイクロファイナンスの登場に伴い、マーケット・メカニズムを活用した新たな手法として、プログラム関連投資やミッション関連投資の手法も発展しつつあります。さらに、助成財団以外にも、様々なフィランソロピーの担い手が登場しています。それは、資金仲介団体、ドナー・アドバイズド・ファンド、オンライン寄附プラットフォーム、コミュニティ財団などが含まれます。

2.グローバル・フィランソロピー・ネットワークの形成

こうした動きを背景に、2000年代に入り、グローバルなフィランソロピー・ネットワークを形成しようという動きも活発化しつつあります。米国財団協議会と欧州財団センターの共同によるグローバル・フィランソロピー・リーダーシップ・イニシャチブやグローバル・フィランソロピー・フォーラム、グローバル・フィランソロピスト・サークルなどはその代表例だと言えるでしょう。さらに、この巨大な変化の波は、2000年代に入り、欧米からアジアに波及し、さらに近年は中東・アフリカに及びつつあります。中国とインドにそれぞれナショナル・レベルでの助成財団センターが誕生し、2012年にはアジア初のアジア・フィランソロピー・サミットが開催されました。中東・アフリカでは、アラブ財団フォーラムやアフリカ・グラント・メーカーズ・ネットワークが立ち上がっています。このように国境を越えたフィランソロピーをさらに加速させるため、米国財団協議会はNGOsource Projectにより、米国の財団が海外のNGOに対して支援するのをサポートするプラットフォームを立ち上げました。また欧州委員会は、欧州域内の助成財団の活動を促進するため、欧州財団法を成立させています。

3.日本の助成財団に求められること

他方、この間、日本のフィランソロピー・セクターは、このような動きから取り残されてきました。日本の助成財団セクターは、90年代前半をピークに設立数は減少し、ほぼ助成財団数は横ばいとなっています。また、助成事業費の合計も低金利の影響を受けて90年代前半以降、減少の一途をたどっています。また、グローバル・フィランソロピー・ネットワーク形成の試みにおいて、日本の助成財団のプレゼンスは極めて低いというのが現実です。

助成財団の長い歴史を有する世界第3位の経済大国であり、また資産家数でも米国に次いで第2位の位置を占める日本には、まだまだフィランソロピー・セクターを質的にも量的に発展させることが出来る余地があります。このためには、失われた20年を取り戻すべく、欧米社会を中心に発展してきたフィランソロピー・セクターの経験を学び、これを取り入れて質量共に発展を加速させる必要があります。

4.笹川平和財団調査報告「国際グラントメイキングの課題と展望」

このような観点から、昨年、笹川平和財団の依頼により「国際グラント・メイキングの課題と展望:グローバル・フィランソロピーの時代における助成財団の新たな役割」という報告書を取りまとめました。このたび、笹川平和財団より報告書が刊行されましたので、シェアさせていただきます。国際協力分野で活動する助成財団のみならず、広くグラント・メイキングに関わっておられる助成財団、信託基金、NPO/NGOやオンライン・寄附サイトなどで働いておられる方にもぜひお読みいただければと思います。ご参考までに、目次をお知らせしておきます。報告書のPDFファイルは、こちらからダウンロードできます。

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はじめに

第一章 主要概念について
1 フィランソロピー
2 助成財団
3 グラント・メイキングと助成

第二章 助成財団の現状
1 米国
2 欧州
3 日本

第三章 助成財団の国際助成事業の現状
1 米国助成財団の国際助成事業の現状
2 英国助成財団の国際助成事業の現状

第四章 グローバル・フィランソロピーの展開
1 国際開発協力に占める助成財団の位置
2 グローバル・フィランソロピーの多様なプラットフォーム
3 新たな支援形態の登場

第五章 助成財団のグラント・メイキング戦略の発展
1 グラント・メイキングの戦略性の向上
2 マーケット・メカニズムを活用した支援への参加

第六章 グローバル・フィランソロピー・コミュニティの強化
1 グローバル・フィランソロピー・ネットワーク構築の試み
2 グローバル・フィランソロピー・コミュニティの拡大
3 グローバル・フィランソロピーのインフラストラクチャー整備

第七章 結論
1 日本の助成財団を巡る環境の変化
2 日本の助成財団に求められているもの
3 国際社会における日本の地位向上を目指して

主要文献

主要団体・情報源

 

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