恊働を通じた社会的インパクトの実現:Forces for Good, Collective Impact, Catalytic Philanthropy

前回のブログでご紹介した通り、現在のNPOに求められている最大の役割は、「恊働」を通じた社会的インパクトの実現です。これについて、幾つかの論点をご紹介したいと思います。

1.Forces for Good

現在、「恊働」を取り上げているほとんどすべてのアメリカの大学院で読まれている本が、多分、「Forces for Good」だと思います。

本書は、高い社会的インパクトを達成している12のNPOをケースとして取り上げながら、その共通性の分析を通じて、新たなNPOの形を提案しています。どれほど、NPOに影響力があり、また卓越した指導者がいたとしても、NPOが単独で実現できることは限定的です。特に、そのNPOが解決しようと言う問題が複雑であればあるほど、このことは当てはまります。

もしも、NPOが、より大きな社会的インパクトを達成したいと考えるのであれば、ネットワークを形成し、セクターを超えた恊働を組織し、さらに、アドボカシーを通じて、社会全体の意識を変えていく必要があることは言うまでもありません。しかし、ある場合には、それがNPO自身の活動を制約する可能性もあります。例えば、助成財団は、短期的で目に見える形の成果を助成先団体に求めがちです。仮にNPOが、プロジェクトからネットワークに重点を移した場合、助成財団は助成を中止し、ライバルのNPOに助成を切り替えるかもしれません。しかし、Forces for Goodの著者達は、そのようなリスクを乗り越えても、ネットワークを通じた社会的インパクトの実現を追求すべきである、と主張します。そのための、戦略は何であり、求められる指導者像は何か。彼らのウェブサイトに概略が説明されていますので、ご参照ください。

2.Collective Impact

Foces for Goodで提唱された「恊働」型のアプローチを最も積極的に推進しているのはFSGだと思います。彼らもまた、豊富なケーススタディに基づき、恊働を通じた社会的インパクトの最大化をいかに達成するかを論じています。

そこでのキーワードは、「恊働」を支えるネットワーク事務局。セクターを超えたネットワーク、と言うのは容易いのですが、いざ実現するとなると、それは大変な努力を必要とします。政府、企業、コミュニティなどの多様なステイクホルダーの間の意見を調整し、問題解決のためにリソースを動員していくためには、忍耐強い調整と、細やかなコミュニケーションが必要です。ネットワークを通じた社会的インパクトの実現は、こうした機能を担うプロフェッショナルな事務局があって初めて、可能になります。そして、そこにこそ、Social Change MakerとしてのNPOの存在意義があるのです。FSGは、これをCollective Impactという概念に整理して、いかにこれを達成するかを論じています。詳しくは、彼らのウェブサイトをご覧ください。

3.Catalytic Philanthropy

では、Collective Impact達成に必要なネットワーク事務局は、誰が担うのか?ネットワークの重要性はみんな認識していても、いざ、事務局を担うとなると、その経費を誰が負担するのか、という問題に必ず行き当たります。残念ながら、近年、多くの財団は、プロジェクトにお金を出しても、中間団体やネットワークにはなかなか支援をしたがりません。皮肉なことに、財団がインパクトを追求すればするほど、具体的なプロジェクトに固執し、結果的に、ネットワークを通じた社会的インパクトの達成が困難になる、という事態が生じています。

この問題を解消しようと、FSGが提唱しているのが、Catalytic Philanthropy(触媒としてのフィランソロピー)というコンセプト。有権者や株主の顔色を伺わないで、中長期的な観点から支援を行うことが出来る財団こそが、多様なステイク・ホルダーのネットワークを組織し、事務局への中長期的な資金支援を通じて、Collective Impactの実現を目指すことが出来る、という主張です。実際、ロックフェラー財団のような伝統のある大型財団は、近年、戦略的にこのようなアプローチを取っています。また、コミュニティ財団や小規模の個人財団でも、自分たちのミッションに基づいて、Catalytic Philanthropyを目指そうという団体が現れています。それはまた、NPOがファンドレイジング能力を強化し、Donor Advised Fundのような新たな形の助成財団が急成長し、さらに社会的インパクト投資のような新たな形の資金調達メカニズムが登場しつつある現代において、グラントメイキングのプロとしての助成財団が生き残るための唯一の方策なのかもしれません。具体的な事例等は、FSGのウェブサイトをご覧ください。

4.Shared Measurement

このようなCollective Impact達成に必要な要素は、成果指標の共有です。政府、企業、様々なNPOやコミュニティ・ビジネス、協同組合、社会企業家などが、一つの社会的インパクト達成のために協働する。そのためには、こうしたアクターの多様性を乗り越えた、明確で客観的な成果指標が、すべてのアクター間で共有される必要があります。これによって初めて、各アクターは、自分たちのリソースをいかに動員して、集合的なインパクトを実現するかという戦略を立てることが出来ます。また、財団や政府の助成プログラムなど、資金を提供する側も、助成資金の成果を評価することが出来ます。さらに、成果指標が共有され、その指標に基づいて各アクターが報告書を作成することが出来れば、助成団体ごとに異なる指標に基づいて報告書を作成することに比べて、大幅に事務処理手続きを簡素化できるというメリットもあります。

FSGは、このような観点から、Shared Measurement(成果指標の共有)の重要性を提案しています。彼らが最終的に目指しているのは、オンライン・プラットフォーム上にすべてのアクターが共有された成果指標に基づいて報告し、これを比較できるシステムの構築です。さらに、このシステムを通じて、恊働のあり方自体も検証し、改善していくことが期待されます。詳しくは、彼らのウェブサイトをご覧ください。

5.終わりに

「恊働」「ネットワーク」「社会的インパクト」・・・。皆、その重要性を認識してはいますが、実際に、それに取り組むとなると、様々な現実的な問題に直面します。これを、理論と実践、そしてテクノロジーによって、克服していこうというFSGの試みは、注目に値すると思います。同時に、こうした動きを促進していく上で、助成財団が重要な役割を果たしうる点についても、改めて強調しておきたいと思います。

★付記

この原稿は、「フィランソロピー・非営利・恊働 情報ボックス」に掲載しようとした複数の記事を元にしています。実は、Facebookページに記事を掲載している途中で、Facebookから「機能の上限を超えています(=記事に記載する字数が多すぎる!)」という警告を何度も受け、やむを得ず、ブログに移したものです。でも、結果的には、ブログの方がこういう議論は展開しやすいことがわかりました。「情報ボックス」Facebookページと、「フロンティア」ブログをうまく使い分けるには、しばらく試行錯誤が必要かなと思いますが、これに懲りずに、引き続き、購読いただければ幸いです。また、「情報ボックス」の方も、時間があればぜひ覗いてみてください。