新たなツール3 証券化

フィランソロピーのニューフロンティア」における新たなツールとして今回紹介するのは、「証券化(Securitization)」です。日本のソーシャル・セクターで、証券化を通じて資金を調達するというのはなかなか想像できないですが、米国では幾つかの試みがなされています。

1.「証券化(Securitization)」とは?

「証券化」とは、住宅ローンや車のローンやクレジットカードなどのローンをプールし、これらのローンを一つのパッケージとしてまとめた上で、金融商品として投資家に売却するプロセスを指します。新たなアクターとして紹介した「流通市場(Secondary Market)」の組織が、通常、この「証券化」のプロセスを担います。証券化を通じて生み出される金融商品としては、債券、短期証券、株式、ワラントなどがあります。

流通市場の組織は、「証券化」を通じて生み出した金融商品を投資家に売却して現金を得ます。この現金をオリジネーターに還元することで、オリジネーターはさらにローンを行うことが出来るというのが、「証券化」のプロセスです。証券化には、資産担保型や不動産担保型など、幾つかの類型があります。

「証券化」プロセスの前提となるのは、オリジネーターが、ローンの返済を通じて確実にキャッシュ・フローを得ていることです。このため、ソーシャル・セクターにおいて、「証券化」手法を利用することが出来るのは、マイクロ・ファイナンスや、コミュニティ開発金融機関、代替エネルギー投資機関など、安定的なローン返済を受けることが出来る機関に限定されます。

2.米国のソーシャル・セクターにおける「証券化」事例

代表的な証券化の事例としては、マイクロファイナンス投資仲介機関(MIIs: Microfinance investment intermediaries)が、債務担保証券(CDO: Collateralized Debt Obligation)という資産担保型証券を使って、マイクロファイナンス機関向けの資金を調達したというものがあります。

また、コミュニティ再投資基金(CRF: Community Reinvestment Fund)が、ロサンゼルスの地域開発公社(LDC: Local Development Corporation)の小企業向けローンを証券化し、CRF-17債として投資家に売却して資金を調達したという事例もあります。これにより、CRFは4610万ドルの資金を調達しました。

これ以外にも、「流通市場」で紹介した、ハビタット・フォー・ヒューマニティズフレックスCAPプログラムSelf HelpのCAPプログラムなども証券化手法の一つです。

しかし、2007年の金融危機により、証券化市場が劇的に縮小し、その後規制も強化されたため、マイクロファイナンス投資仲介機関もコミュニティ再投資基金も、その後、証券発行を中止しています。

3.「証券化」手法の課題と展望

「証券化」の手法が成立するためには、上に述べたように、定期的なキャッシュ・フローがあることが前提となります。また、住宅ローンや事業ローンなどの小規模なローンをパッケージ化し、大規模な金融商品とする必要もあります。通常、証券化のためには最低限、5000万ドル程度の資金規模が必要だとされています。さらに、「証券化」のためには、専門の金融機関の支援が必要となります。

以上の様々な条件を考えると、ソーシャル・セクターが「証券化」を通じて資金調達することは、ハビタット・フォー・ヒューマニティズのような大規模な組織を除くと、現実的ではないかもしれません。

しかし、現在でも、様々な取り組みが進められています。たとえば、チャーター・スクール・ファイナンス・パートナーシップは、チャーター・スクールが建設・改修費用を証券化を通じて調達するのを支援しています。このメカニズムでは,複数のチャーター・スクールがまとまってローン資産を担保に証券を発行する際、ファイナンス・パートナーシップが信用補完を行うというもので、ファイナンス・パートナーシップによると、1450万ドルの信用補完を通じて、チャーター・スクールは1億6500万ドルの資金を調達したと言うことです。

証券化は、小規模なコミュニティ開発金融機関やマイクロファイナンス機関が、貸出資金を拡大するために有効なツールです。しかし、証券化を通じた資金調達にはリスクとコストが伴います。これを補填するためには、何らかの公的支援やフィランソロピー資金が必要となります。2007年の通貨危機で打撃を受けた証券化手法が、今後、ソーシャル・セクターの資金レバレッジの重要なツールとしてどのように甦るのか、注目されます。

「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)

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