新たなツール2 確定利付証券

フィランソロピーのニューフロンティア」において新たに登場した支援ツールとして次にご紹介するのは、「確定利付証券(Fixed-income Securities)」です。これは、国債、地方債、社債など、広く利用されてきた金融ツールですが、近年、ソーシャル・セクターにおいても利用されるようになってきました。

1.「確定利付証券」とは何か?

確定利付証券とは、「借り手が、特定の満期日、支払い利子額、支払い回数などを定めた契約を貸し手と締結して調達するデット手法」と定義されます。支払利子額は、クーポンと呼ばれます。

確定利付証券は、持ち分を伴わないため、エクイティではなく、デットとなります。但し、デットの主要類型であるローンと異なり、確定利付証券は、借り手と貸し手の直接契約ではなく、投資銀行や証券会社などの仲介機関を通じて取引されます。投資家は、一定期間を経た後に、購入した確定利付証券を売却することも出来ます。さらに、確定証券は、金額も、ローンに比べて大きく、投資家も複数になるため、ローンとは異なる様々な規制が適用されます。また、確定利付証券には、レイティング機関の格付けが必要となる場合があります。

2.確定利付証券の類型

確定利付証券には、償還期間が長い「債券(Bond)」と、償還期間が短い「短期証券(Note)」の2つがあります。米国のソーシャル・セクターでは、以下のような利用事例があります。

  • 債券
    米国では、内国歳入庁(IRS)の定めに基づき、地方自治体が非営利法人の代わりに、資金調達のための免税債券を発行することが出来ます。対象分野は、教育(チャーター・スクールや私立大学等)、保健医療(病院、診療所、介護施設等)、文化(博物館、美術館、劇場、放送局等)、娯楽(YMCA、コミュニティ・センター等)、住居(集合住宅、介護用住宅等)、都市開発などです。地方自治体の信用と免税メリットのために、比較的大規模な資金の調達が可能となります。また、保健医療機関や教育機関が独自に債券を発行することも可能ですが、その場合には課税対象となります。このような独自の債券発行も広く行われています。
  • 短期証券
    カルバート財団が発行しているコミュニティ・インパクト証券(Community Impact Note)が有名です。これは、一般を対象にコミュニティ・インパクト証券を発行して資金を調達し、これを米国内外の低所得層コミュニティの社会的企業やコミュニティ開発事業に投資するというものです。コミュニティ証券は、1口20ドルから購入可能で、償還期間は1,3,5,7、10年から選択可能。利子も、0,1,2,3%からそれぞれ選択可能となっています。基本的に、返済率は100%を誇っています。カルバート財団の成功により、他のコミュニティ開発金融機関も同様の短期証券の発行に乗り出しており、The Reinvestment Fundボストン・コミュニティ・キャピタル北カリフォルニア・コミュニティ・ローン・ファンドエンタープライズ・コミュニティ・ローン・ファンドなど、様々な機関がコミュニティ向けの短期証券を発行しています。

3.「確定利付証券」の課題と展望

確定利付証券を通じた資金調達は、株式を発行できない非営利組織が、大規模な資金を調達する際に有効なツールです。不動産取得や設備投資の際には、不可欠です。また、カルバート財団が提示したコミュニティ・インパクト証券モデルにより、コミュニティの人たちから小口の資金を調達して、大規模資金をプロジェクトに投入することも可能になりました。今後、ソーシャル・セクター団体がスケールアップしていく上で、確定利付証券は、ますます重要なツールとなっていくと思われます。

しかし、確定利付証券にも課題があります。債券の場合、免税債券を発行するにせよ、独自に債券を発行するにせよ、レイティング機関による信用格付けが重要な要素となります。高い格付けを得るためには、資産、事業、収入見込みなどが、安定しており、規模が大きいことが必要です。このため、一定以上の資産を持ち、学費や診療費、利用料などの収入基盤が安定している大規模な学校や病院、コミュニティ施設以外は、債券を通じた資金調達は現実的ではありません。また、債券発行には、その手続きに時間がかかり、運営経費が発生することも忘れてはなりません。

コミュニティ・インパクト証券については、インパクト投資機関がこの領域に参入しており、今後さらに発展することが期待されます。たとえば、RBC Global Asset Managementは、アセット・キャピタル・コミュニティ投資戦略を1998年より開始しており、中低所得者向け住宅や介護施設などに投資をしています。但し、行き過ぎた市場化には、リーマンショックの引き金となった低所得者向け住宅サブプライムローン問題のようなハイリスク投資の問題がありうることも忘れてはならないでしょう。

「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)

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