新たなツール1 ローンと信用補完

フィランソロピーのニューフロンティア」における「新たなアクター」の紹介に続いて、「新たなツール」を紹介していきます。伝統的な寄付や助成とは異なる新たな支援ツールにはどのようなものがあるのでしょうか。引き続きレスター・サラモン教授編「フィランソロピーのニューフロンティア」の各章の記述を中心に概要を共有したいと思います。今回は、「ローンと信用補完」です。

1.ソーシャル・セクターの団体が利用できる資金リソース

ソーシャル・セクターの団体が利用できる資金リソースには、基本的に3つの類型があります。グラント、ローン(債務)、そしてエクイティ(株式)です。

  • グラント
    無償で提供される資金のことです。これは、政府の補助金、財団の助成金、あるいは富裕層による大規模寄付などが該当します。その名のとおり、無償で提供されるため、ソーシャル・セクター団体には返済の義務がありません。
  • ローン
    返済を前提に提供される資金を指します。通常は、銀行などの金融機関によるローンが一般的ですが、ソーシャル・セクター団体の場合、コミュニティ開発金融機関やNPOバンクによる貸付、財団によるプログラム関連投資を通じた貸付などもあります。ローンは、通常、元本に利子をつけて返済する必要があります。
  • エクイティ
    将来の収入や収益に応じた配当や、企業価値に連動した株式売却利益などを前提に提供される資金を指します。株式会社の株式が一般的な形態であるため、ソーシャル・セクター団体の場合、基本的には営利組織の法人格を取る社会的企業のみが利用可能です。ただし、株式を発行できない非営利組織の場合であっても「準株式」という形で擬似的にエクイティを発行する場合があります。
    エクイティは、ローンと異なり、収入や収益の有無にかかわらず機械的に返済する義務はありません。収入や収益が発生したり、企業価値が上がったりした場合にのみ配当や株式売却益という形でリターンが支払われます。
    また、エクイティの場合、ソーシャル・セクター団体が債務整理をする場合、残余資産に対する請求権はすべてのローン債権者の返済を済ませた後にのみ発生します。残余資産が残っていなければ、リターンはありません。この意味で、エクイティは極めてリスクの高い資金提供形態だと言えます。

2.ソーシャル・セクターがローンを必要とする場合

通常、ソーシャル・セクター団体の収入源としては、寄付・会費、助成金・補助金、事業費収入・業務委託収入が一般的です。しかし、ソーシャル・セクター団体がローンを利用する状況も以下の通り、いくつか存在します。

  • 事業のつなぎ資金
    ローンで最も多いケースがこれです。たとえば、助成金や補助金あるいは業務委託が決まって事業を開始しなければならないけれども、まだ資金が支払われていない場合のつなぎ資金として、ローンを借りる場合です。自己財源が小さいソーシャル・セクター団体にとって、つなぎ資金を確保できるかどうかは死活的に重要です。
  • 不動産取得、機材・設備購入
    ソーシャル・セクター団体が、事業基盤を安定させる上でまず第一に必要となるのは、事業に必要な不動産の取得や機材・設備の購入です。長期的に見た場合、レンタル料や賃貸料を支払い続けるよりもコストを抑えることが出来るからです。この費用は、通常、自己資金で賄う規模を超えているため、ローンが必要となります。
  • スケールアップ資金
    さらに、ソーシャル・セクター団体が、活動地域を広げたり、あるいは新規事業に参入するなど、活動規模や範囲を拡大する際にも、追加資金が必要となります。このためにも、ローンが必要となります。

3.「信用補完」の役割

このように、ソーシャル・セクター団体にも、その資金需要を満たすためにローンが必要となります。しかし、通常、ソーシャル・セクター団体は、ローンを確保するための担保もなく、確立されたビジネス・モデルもありません。言い換えれば、ソーシャル・セクター団体は、「信用」度が低いということです。このため、一般の金融機関は、なかなかソーシャル・セクター団体にローンを提供したがりません。仮に、ローンを提供したとしても、「サブプライムローン」という形で、通常よりも高い金利を設定することになります。これは、財務状況が脆弱なソーシャル・セクター団体にとっては負担になります。

この問題を解決する方法の一つが、「信用補完(Credit Enhancement)」です。これは、助成財団や公的機関が、ソーシャル・セクター団体の信用を補完することで、彼らが一般金融機関からローンを確保することを促進しようという取り組みです。信用補完にも以下の通りいくつかの類型があります。

  • 信用保証(Guarantee)
    公的機関や助成財団などが、金融機関に対して、特定のソーシャル・セクター団体がローンを組むにあたり、その返済を保証すると言う手法です。仮にローンが返済できなかった場合には、公的機関や助成財団が肩代わりします。
  • 劣後ローン(Subordinated loan)の引き受け
    ストラクチャード・ファイナンス商品の劣後部分を助成財団が引き受けることで、一般金融機関が優先ローン部分を引き受けることを促すという手法です。劣後ローンはリスクが高いため、通常は利子率も高くなりますが、助成財団がこれを低利で引き受けることで、ソーシャル・セクター団体の負担が減少します。「社会的インパクト債」でも、多くの助成財団が、劣後部分を引き受けています。
  • 準備金(Reserves)の提供
    ソーシャル・セクター団体がローンを組む際に、助成財団がそのソーシャル・セクター団体に「準備金」を助成又は貸し付けるという手法です。「準備金」は、そのローンの返済以外に使うことは出来ません。「準備金」をある種の担保にして、ソーシャル・セクター団体は、一般金融機関でローンを組むことが可能となります。
  • 利子補填(Interest Subsidies)
    公的機関や助成財団が、ソーシャル・セクターのローン返済利子の一部を支援するという手法です。ソーシャル・セクターに対する資金支援という形を取る場合もあれば、一般金融機関に資金を提供するという形を取る場合もあります。公的機関の場合、税控除を適用することも可能です。

4.「ローン及び信用補完」の現状と課題

現在、米国では、様々な形で、ソーシャル・セクター団体に対するローン・プログラムや信用補完プログラムが行われています。

助成財団はプログラム関連投資という形で、助成先団体にローンを提供しています。また、コミュニティ開発金融機関の中には、ノンプロフィット・ファイナンス・ファンドノンプロフィット・アシスタンス・ファンドのように非営利組織向けローンを専門的に扱う団体が活動を行っています。

信用保証の分野では、KIPPヒューストンという非営利組織が3億ドルのローンを組む際に、ゲイツ財団が3000万ドルの信用供与を行ったことで、この手法が広く認められるようになりました。これ以外にも、様々な助成財団や公的機関が信用保証を行っています。

他方、課題としては、ソーシャル・セクター団体の体制の問題があります。グラントと異なり、ローンには返済義務があります。返済のためには、一定の現金収入を確保するビジネス・モデルの確立が不可欠です。また、ローンを組む際には、金融機関に詳細な財務データを提出しなければなりません。しかし、一部の大規模団体を除けば、ソーシャル・セクター団体は、ローン借入に必要な資料の作成能力(ビジネス・プラン、財務諸表など)や、実際にビジネスを運営する能力が不足しています。「ローン」による資金調達を拡大するためには、今後、こうした面で、ソーシャル・セクター団体のキャパシティ・ビルディングを行う必要があります。

「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)

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