ご挨拶

「フィランソロピーのフロンティア」ブログにようこそ!

ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所があるボルチモアに移ってから1ヶ月近くが経ち、ようやくこちらの暮らしにも慣れてきました。9月からは、本格的に、研究所で国際フィランソロピー・フェローシップ・プログラムが始まります。研究所では、フィランソロピーの動向についての日米比較を行う予定です。また、このブログでは、米国を中心とした海外のフィランソロピーの最新動向を紹介していきたいと思っています。ブログの目的や「フィランソロピーのフロンティア」というコンセプトについては、「このブログについて」で詳しく紹介しましたので、そちらをご参照下さい。

今回は、第一回目の投稿ですので、ご挨拶をかねて、少しだけ個人的なエピソードを紹介したいと思います。私は、1990年に国際交流基金に入社しました。その当時、まだ日本はバブルの余韻が残っており、企業メセナや企業の社会貢献、シビル・ソサエティ論などが活発に議論されていました。ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所のレスター・ソロモン所長が、国際的なNPO比較研究プロジェクトを立ち上げたのもこの時期です。当時は、冷戦が終了し、東欧の旧共産主義諸国が民主化・市場経済化を進めていたこともあり、国境を越えたグローバルな市民社会形成に向けて、様々な取り組みがなされていました。アジア太平洋地域においても、アジア財団の主導によるアジア太平洋フィランソロピー・コンソーシアムが、アジア太平洋地域のフィランソロピー・セクターのネットワーク化に向けて様々な調査プロジェクトやネットワーク形成プロジェクトを行っていました。

それから20年が経ちました。日本では、この間、NPO法が制定・改正されて、NPOという存在は、社会的に定着しました。いろいろな議論があるとは言え公益法人改革が行われ、また、寄附税制も前進しました。企業メセナ協議会や経団連1%クラブなどの活動で、企業の社会貢献活動やCSR活動も日本社会に定着しました。ジャパン・プラット・フォームに代表されるような、日本のNGO/NPOと企業・政府との協働による海外支援も大きく発展しました。新しい公共を巡る議論において、非営利・協働分野をいかに日本社会で発展させていくかが議論されました。多くの方々による、本当に頭が下がるような努力をされてきた結果が、このような現在の日本の非営利セクターの発展につながってきたのだと思います。日本の非営利セクターは、今や、成熟した段階に入りつつあると思います。しかし、一方で、日本の助成財団の設立件数は2000年代に入り減少しています。助成財団の資産規模や助成金額の規模などは、米国に比べればまだまだ圧倒的に少ないというのが現実です。また、NPOに目を向けても、米国のNPOの活動規模がGNPの10%以上を占めているのに比べると、活動規模や資金源はまだまだ発展途上であると言わざるを得ません。

私自身は、2007年から国際交流基金ニューヨーク日本文化センターに勤務し、副所長としてセンター業務全体を統括しながら、プログラム・ディレクターとして、日米草の根交流・教育アウトリーチ団体の支援を行ってきました。その過程で、こうした交流団体のキャパシティ・ビルディング・サポートを開始する必要を痛感し、米国のNPOやフィランソロピー・セクターの動向を調査するようになりました。また、米国における日系企業の社会貢献活動調査というプロジェクトを別途行っていく中で、米国における企業フィランソロピーの動向や、企業とNPOの協働の現状についても調査を行いました。さらに、日本を含めたアジアと米国の交流を支援する財団のネットワークである、アジア・ファンダーズ会合やジャパン・ファンダーズ会合に出席し、情報交換を行っていく中で、米国財団の戦略計画の策定やグラント・メイキング手法などについても理解を深めることが出来ました。こうした経験を通して、米国のフィランソロピー・セクターや非営利セクター、サード・セクターのダイナミズムを知るにつれ、米国での様々な資金調達手法やスケールアップのシステムをより深く学び、日本に共有できないかと考えるようになりました。これが、20年以上、勤務した国際交流基金を退職して、米国での新たな生活を始めたきっかけです。

こうして、2011年に国際交流基金を退職し、ペンシルヴァニア大学NPO/NGOリーダーシップ開発修士課程に入ったのですが、そこでは、魅力的な教授陣に恵まれて、米国の第三セクターの最先端の動向を学ぶことが出来ました(このコースのユニークなカリキュラムについても、いつかこのブログで紹介したいと思います。)。私は、今まで、助成する財団の側からしかNPO/NGOを見ていなかったので、このコースのようにNPOリーダーの立場から、総合的にNPO/NGOの経営戦略を実践的な手法で学ぶことが出来たことは、非営利セクターを理解する上で貴重な経験でした。また、同大学のCenter for High Impact Philanthropyのご理解を得て、アジアのフィランソロピーの動向調査にも関わることが出来ました。この調査の結果、アジアにおけるフィランソロピーセクターを巡る環境も急速に変化しつつあり、ある意味では、日本以上にアジアのフィランソロピー・セクターは、グローバルな潮流に呼応していることを思い知りました。こうした経験は、日本のフィランソロピーや非営利セクター、第三セクターを考え直す上で、様々な示唆を与えてくれました。

幸い、ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所の国際フィランソロピー・フェローシップ・プログラムへの参加を認められ、これから1年間、米国のフィランソロピーの最新の展開について、さらに研究する機会を得ることになりました。ちょうど、同研究所でも「フィランソロピーの新しいフロンティア」という共同研究プロジェクトが進められており、まさに私の現在の関心事項にあっています。言うまでもなく、レスター・ソロモン所長は、第三セクター研究のいわば産みの親であり、同研究所には、90年代から進められてきたNPOの国際比較研究プロジェクトをはじめとして、非営利セクター/第三セクター研究に関する貴重な資料が残されています。また、研究所には、ISTR(International Society for Third Sector Research)という国際学会の事務局が設けられており、第三セクター研究に関する様々な情報を得ることが出来ます。せっかく、このように恵まれた環境で研究できる機会が与えられたのですから、少しでもこの成果を日本の関係者と共有したい、と考えたのが、このブログを立ち上げるきっかけとなりました。

冒頭でお伝えしたとおり、これから、このブログで、米国を含めた海外のフィランソロピーの動向について紹介していきます。私は、専門の研究者ではありませんので、時には、事実誤認や基本的な理解不足が見られることもあり得ます。その際は、ご容赦いただくと共に、ぜひコメントを通じてご指摘いただければと思います。また、そうでなくても、このブログで紹介する事例やアイディアについて、日本のフィランソロピーセクターや第三セクターはどのように考えるのか、積極的にコメントをしていただければと思います。このブログが、日本のフィランソロピーセクターの更なる発展に向けて、ささやかなりともお役に立てればと願っています。

これからよろしくお願いします。