フィランソロピーのニューフロンティアとは?

「フィランソロピーのニューフロンティア:
社会的インパクト投資の新たな手法と課題」
(レスター M.サラモン著、小林立明訳、ミネルヴァ書房)

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フィランソロピーとは?

フィランソロピーという言葉の本来の意味は、「人類への愛」です。この言葉は古代ギリシャから存在していましたが、近代に入ってからは、もっぱら、篤志家の慈善活動を指すようになりました。20世紀に入り、米国でロックフェラー財団、カーネギー財団、フォード財団などの財団が設立されると、こうした財団の支援活動もフィランソロピーに加えられるようになりました。さらに、企業が、傘下の企業財団や自らの社会貢献部署を通じて行う支援活動も、コーポレート・フィランソロピーとしてフィランソロピーの活動の一環に加えられるようになります。現在では、個人の寄付・ボランティア活動も含めた包括的な利他的行為を示す言葉として使われています。

伝統的フィランソロピーの枠組み

では、フィランソロピーは、具体的にどのような形で行われてきたのでしょうか。伝統的な慈善活動は、非営利団体への資金・物資の寄附という形態を中心としてきました。財団は、これをより洗練させ、専門的なプログラム・オフィサーが、財団の掲げるミッションの達成のために、プログラムのガイドラインを策定し、良質な支援団体を選定して資金支援を行うというグラント・メイキングの手法を発達させます。他方、企業は、企業財団を設立することで財団のグラント・メイキングの手法を踏襲しつつ、独自のコーポレート・フィランソロピーの手法として、企業の物資やサービスを提供する現物支給型支援や、企業人材の無償提供、社員ボランティアの奨励や社員募金に対するマッチング・ファンド、イベントなどに資金を提供するスポンサーシップなどを開発してきました。

このように、フィランソロピーは多様な形で発達してきたわけですが、伝統的フィランソロピーには一貫した枠組みがあります。これをフィランソロピーの担い手、支援の方法、支援の対象、および資金調達の方法の5つの側面で整理すると以下のようになります。

  • 担い手 :個人、財団、企業
  • 支援方法:無償による資金・物資・サービスの提供(ボランティア活動を含む)
  • 支援対象:非営利団体
  • 資金調達:自己資金
  • 支援枠組:支援者/支援対象の1対1の関係

フィランソロピーのフロンティア

しかし、近年、複雑化する現代社会の多様なニーズに応え、その役割を拡大していくために、このような伝統的な枠組みを超えていこうという動きが見られます。このブログでは、こうした動きを「フィランソロピーのフロンティア」と名付けたいと思います。では、具体的に、どのような動きが見られるのでしょうか。上記の5つの側面に沿って整理すると以下のようになります。

  • 担い手の多様化:
    ギビング・サークルなど、一般の人たちを含めた多様な層の参加。コミュニティ基金やNPO基金など多様な形態の団体の登場。社会的投資機関やマイクロファイナンス機関など。
  • 支援方法の多様化:
    社会的インパクト投資やプログラム関連投資、あるいはマイクロ・ファイナンスなど、ミッション達成を目的とし、長期・低金利を前提とした、有償による資金提供。収益の一部をミッションを共有するNPOに提供するコーズ・マーケティングなど、企業の本来の営利活動を通じた支援など。
  • 支援対象の多様化:
    社会的企業や、第4セクターと呼ばれる非営利と営利を融合した団体への支援。マイクロ・ファイナンスの手法による個人企業家への支援など。
  • 資金調達方法の多様化:
    ドナー・アドバイズド・ファンド 、プランド・ギビングや、社会的インパクト債など、新たな資金調達手法の開発。IT技術を利用したオン・ライン・ギビングやモバイル・ギビングの発展。ソーシャル・メディアを活用したキャンペーン型ファンド・レイジング手法の登場など。
  • 支援枠組:
    セクターを超えた協働を目指す触媒型フィランソロピーや、関心領域を共有するドナー・サークル、あるいはグローバル・フィランソロピー・フォーラムなど、ネットワーク型の支援枠組みの形成など。

こうした多様な動きの中には、まだ発展途上のものやアイディア段階のものも含まれており、今後、その中のどれが成長し、フィランソロピーの主流となっていくのかはわかりません。ただ、こうした多様性の拡大が、フィランソロピー・セクター自体を活性化し、その社会的役割を増大させていくだろうと言うことだけは確かだと思われます。

ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所のプロジェクトについて

ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所のレスター・ソロモン所長が中心となって実施した「フィランソロピーのニューフロンティア」は、この分野での初の包括的な学術研究プロジェクトです。プロジェクトでは、フィランソロピーを、広義に「社会的問題の解決および環境保護を目的とした民間リソースの動員過程」と定義し、伝統的な財団によるグラント・メイキングのみならず、社会的投資、インパクト志向投資、マイクロファイナンス、コミュニティ開発ファイナンス、および企業の社会関与などを含めて分析しています。研究所としては、単なる研究にとどまらず、こうした様々な手法の発展のための政策提言、インフォーメーション・シェアリング、次世代リーダーの育成、ネットワーク化などに取り組んでいく予定です。研究チームには、英米を中心に、最先端で活躍する研究者、実務家、コンサルタント、ジャーナリストなどが含まれており、現代フィランソロピーの最新動向を通観することが出来ます。ご関心がある方は、以下のウェブサイトをご覧下さい。